快適、健康、省エネルギーという3つのGOAL。これらのGOALは、その住まいで暮らす家族はもちろん、進行する地球温暖化のことを考えても、しっかりと実現したいものです。
一住まいの温度・湿度と、人の健康にはとても深い関係がある。
近年、世界的に注目されているテーマです。以前からカビやダニの問題としては取り上げられていましたが、たとえば「冬の不適切な室温が健康リスクにどれだけ影響を与えるか?」といったことが明らかになってきたのです。
心地良さ(快適)を住まいに求めるのは当然ですが、あわせて健康のことも意識した家づくりを考えるのが適切ということです。
そして、高いレベルの快適・健康を、最小限のエネルギー消費で実現させる住まい。
これがGOALです。そこに向かうときに、必要になってくる技術は次の2つです。
パッシブデザイン Passive design 一 建物をどうデザインするか?
アクティブデザインActive design 一 設備をどうデザインするか?
ここで優先すべきはパッシブデザインです。
建物の熱的な性能、日射熱や自然風を利用するための配置計画やプラン上の工夫などをしっかり考えることによって、その住まいにおける「快適・健康・省エネルギー」の高いポテンシャルを実現させます。
そして次にアクティブデザインを考えます。
ここで快適・健康・省エネルギーのすべてに大きな影響を与える冷暖房設備について、24時間換気設備と一緒にデザインすることが重要です。
また省エネルギーという視点では、エネルギー消費量が多くなる給湯設備に対する工夫がとても大切です。
断熱性能を高めることによって、建物内の熱(暖房の熱や取り入れた日射熱)が外に逃げにくくなり、建物全体の温度を高く保つことができるようになります、
つまり、冬の間寒いと感じる時間や部屋が減っていき、高い快適性が実現することはもちろん、健康性の維持にも大きくつながります。
「どこまで断熱性能を高めるべきか?」を判断するとき、もっとも重要で参考にすべきなのが建物全体で逃げていく熱量を示したUA値やQ値です。
次の表は、住宅の省エネルギー基準において定められた数値ですが、これは”最低限の数値”なので、この数値を1.5で割り算した数値以下にすることをお勧めします。
冬の南面に届く太陽エネルギーはとても大きく、これをうまく断熱性能を高めた建牛刎こ取り入れることによって、夜の暖房に使えるほどになります。
このエネルギーを取り込む基本的な場所は「窓」です。
断熱性能と日射取得性能のバランスが取れた窓を選び、そうした窓を南面に大きく設けることが重要です。
たとえば東京で南面の窓(3㎡)に当たる日射熱は、冬の平均で「電気ストーブ1台分の発熱量(約1000W)」にもなります。
CO2も出さず、0円であるこの日射熱を取り込まない手はありません。
南面の3㎡に当たる1日分の日射量を、電気ストーブをつけたおよその時間数で換算すると、地域差はありますが、少ない地域でも相当な日射量が南面に届いていることがわかります。
「冬暖かく」の基本が断熱とすれば、「夏涼しく」の基本になるのが日射遮へいです。
日射遮へいの工夫のひとつに断熱もありますが、それだけで十分と考えるべきではありません。
そこで何よりしっかりと考えるべきは「窓の日除け」です。
これが不十分であれば、夏に入ってくる熱の約70%が「窓から」となり、これを少なくしないと夏の満足度を上げることはできないのです。
内側につける日除け(ブラインド、レースカーテンなど)よりも、外側につける日除け(すだれ、シェード、ブラインドなど)のほうが圧倒的な効果があります。
このことが十分に知られておらず、不十分な日除けになっている家が多いのが残念です。
軒や庇も日除けには有効です。しかし、次のような点に注意が必要です。
・とくに東西の庇は、幅が不十分だと斜めからの日差しが入ってくる
・ただし、南面の軒や庇を出しすぎると、冬場に窓からの日射取得が不利になる
夏に家の中よりも外のほうが涼しいとき、その冷風を取り込むと、涼感が得られ、建物内の熱気を排出させる効果も期待できます。
ここでまず考えたいのは「全方位通風」の実現です。
風は気まぐれなので、風向きによらず風が通るようにしておくわけです。
また、夕方以降になると建物の上部に熱気が溜まるので、それを排出させるために「高窓」をつけることも有効です。
左のプランは「東西南北」いずれの方向からの風も通る「全方位通風」になっています。
窓に平行に吹いてくる風を取り込む工夫(ウィンドキャッチャー)を考えると、窓がない方向からの風を取り込むことができ、全方位通風が実現しやすくなります。
昼間でも「住まいの全体やどこかの部屋が暗い」という不満を持つ人は多く、それを解消して快適な明るさの環境をつくり出す工夫が昼光利用です。
ここでは、「バランスよく窓を設けること(採光)」と「取り入れた光を奥まで届けること(導光)」に考慮することがポイントです。
日射熱利用暖房、日射遮へい、昼光利用。
これらのパッシブデザインは「いかにうまく太陽と付き合える建物にするか?」を検討する内容です。
こうしたことがうまく考えられた住まいと、そうでない住まい(たとえば断熱性能だけ高い住まい)との違いは本当にとても大きくなります。
そういう意味で、1年を通して太陽の動きを把握するための日照シミュレーションは必須です。
南面に届く太陽エネルギーがとても大きいと述べましたが、屋根に届く日射熱もそれと遜色はありません。
隣家などの状況によって南面に日射が当たらない敷地の場合、屋根でその熱をうまく取り込む工夫(天窓や集熱装置の設置)が有効になります。
もちろん、窓と屋根の両方で日射熱を取り込むことができれば、さらに日射熱による暖房効果は大きくなります。
北海道の暖房を除き、これまで我が国の冷暖房は「居室間欠冷暖房」と呼ばれる、「居室だけを、点けたり消したりして冷暖房する」という方式がほとんどでした。
こうした方式はエネルギー消費が抑えられるものの、建物の熱的な性能の低さも相まって、部屋間の温度差が生じやすく、冷暖房している時間とそうでない時間との温度差も大きくなってしまうものでした。
当然ながらそうした住まいの快適・健康のレベルは低いものになります。
一方、「全館空調」という言葉とともに、とくに最近になって注目されてきたのが「全館連続冷暖房」と呼ばれる方式です。
これは「家の中のほとんどの範囲を、ずっと冷暖房する」という考え方です。
こちらは快適・健康のレベルが高くなるという大きなメリットがあるものの、エネルギー消費は増える傾向になります。
また、24時間換気設備も熱の動きや温度・湿度を決める重要な設備であり、冷暖房のデザインと一緒に考えていくことが重要です。
一日のうちで常に変動している人の血圧。変動の仕方には個人差があり正常の血圧の人では、起床後徐々に上昇し、夕方ごろにピークに、その後徐々に低下して深夜(就寝中)に最も低くなります。しかし、この血圧パターンが変化して、起床後血圧が高くなるケースがあり、これを「早朝高血圧」といいます。「早朝高血圧」には、起床後に血圧が急上昇するタイプと、就寝中に血圧が下がらないまま起床後に血圧が上昇するタイプがあります。早朝から午前中に多く起こる脳卒中や心筋梗塞などには、朝の血圧が高い「早朝高血圧」を予防することが重要です。
そのために、睡眠中の寝室の室温管理が重要で住宅内での室温差管理が大切です。
寒い時期になると脳卒中や心筋梗塞を発症する率が高く要因として、家の中の急激な温度差によって血圧が大きく変動して身体に悪影響がおよぶ「ヒートショック」があげられます。
上記の結果から、居間と寝室の室温差にも注意を向けた方がよいことが明らかです。
省エネルギー住宅の実現を考えるときには、暖房・冷房・給湯・照明など各用途のエネルギー消費を見ながら、「1年間の家全体のエネルギー消費合計」に注目してパッシブデザインとアクティブデザインを検討していくことが重要です。
実際には、エネルギー消費量をシミュレーションすることで、こうした検討がしっかりできるようになります。
なお、国は地球温暖化対策の一環として、家庭部門のエネルギー消費量を「2013年を基準として、2030年までに約22%削減する」という目標値を挙げています。
寒冷地を除けば、2013年頃の1家庭あたりのエネルギー消費量は約80GJ/年なので、少なくとも60GJ/年を下回るような住まいをつくりたいものです。
「建物の工夫で自然エネルギーをうまく利用しよう」というのがパッシブデザインですが、アクティブデザインにおいても自然エネルギー利用は省エネルギーに大きな効果があります。
とくに、地球に届いている太陽エネルギーは大きく、「太陽エネルギーを電気に」だけではなく、「太陽エネルギーを熱に」という形としても徹底的に活用していくことが求められます。
室内空気には化学物質、ウイルス、カビ、水蒸気などが含まれており、快適で健康的な住まいの実現に大きな影響を与えます。
問題を生じさせる物質や微生物を排除するには風通しを良くするパッシブデザインとともに、換気設備や空気清浄機の検討も重要になります。
もちろん、このときには換気能力や空気清浄能力をきちんと確かめて選択すべきですが、省エネルギー性(電力消費量)にも注目したいところです。
とくに24時間換気設備にっいて述べれば、高いレベルの快適性、健康性が求められてきたことで、熱交換型換気設備を設置する住宅が増えてきました。
建物の快適性、健康性、省エネルギー性を決める要素は、「外気温、日射量、周辺環境」といった外部の条件から、「断熱性、気密性、窓の仕様・大きさ・配置、冷暖房などの設備機器、冷暖房する範囲や時間」といった建物や設備、住まい方の条件まで多岐にわたります。
また、たとえば窓を大きく取れば日射取得、風通し、明るさには有利になる一方、断熱性能が悪くなり、夏の日射熱も多く入ってきてしまうことになります。
数多くの影響要素を考慮しつつ、こうした矛盾を解決して「最良の答え」を出すためには、勘や経験だけに頼る家づくりには限界があり、満足する住まいの実現には事前のシミュレーションが不可欠です。
かつて、シミュレーションは研究者だけが使っているような状況でしたが、住宅建築の実務者でも手に入れられるようなシミュレーションツールが出てくるようになりました。
すでにご紹介した日照シミュレーションやエネルギー消費性能計算プログラムの他、適切なツールを使いこなしている会社が3GOALSを実現に近づけてくれることは間違いありません。
高度化された現代の住宅設備においては、その能力を適切に発揮させるための詳細なシステム計画がますます重要になっています。
システム機器の供給元と協働しながら、それぞれの住宅に合わせた計画を実施する態勢が重要です。
建物全体を不備なく施工することはもちろん、シミュレーションで得られた結果を実現させるためには、断熱・気密施工や設備の設置などに関する的確な施工技術が不可欠であることは言うまでもありません。
パッシブデザインの住まいでは、通風、採光、日射取得や日射遮蔽に工夫することが重要です。
また設備機器の適切な使い方が快適性やエネルギー消費量を決めることにもなります。
こうした暮らし方のアドバイスを行いながら、住まいのメンテナンスを継続させていくことが住宅会社に強く求められています。